ウォーロード 男たちの誓い

新宿ミラノ3 ★★☆

■投名状の誓いの重さ

『レッドクリフ』二部作の物量攻勢の前では影が薄くなってしまうが、こちらもジェット・リー、アンディ・ラウ、金城武の共演する歴史アクション大作である。アクション映画としての醍醐味はもちろんだが(物量ではさすがにかなわないが、リアルさではこちらが上だ)、戦いの本質や指導者の力量といったことにまで踏み込んだ力作になっている。

時は十九世紀末、外圧によって大国清の威信は大いにぐらつき、足元からも太平天国の乱などが相次いで起きていた。

友軍の助けを得られず、千六百人の部下を失った清軍のパン将軍は、ある女に介抱され一夜を共にしたことで、再び生きていることを実感する。そしてウーヤンという盗賊に見いだされ、アルフ率いる盗賊団の仲間となり、三人は投名状という誓いの儀式(これも『三国志』の桃園の誓いと似たようなものだものね)を交わし義兄弟となる。また、アルフに会ったことでパンは、あの時の女リィエンがアルフの妻だったことも知るのだった。

アルフは盗賊団となった村人たちからの信望が厚く、統率力もあるのだが、所詮やっていることは盗賊行為のため、クイの軍隊(清)がやってきてそのことを咎められ、逆に食料を持ち去られてしまう。軍に入れば俸禄がもらえるのだから、盗賊行為はやめようというパンの助言で清軍に加わることになり(三人が投名状の誓いをするのはこの時)、手土産に太平軍を襲うことを決める。

結束した三人は次々と戦果をもたらし、パンを将軍とした彼らの力は清の三大臣も認めるところとなる。そして、ハイライトともいうべき蘇州城攻めになるのだが、ここには終戦を望まない三大臣や、どこまでも状況を見てからでないと動かないクイ軍らの思惑がからんだものになっていて、いってみればアルフのような盗賊の首領としてなら通用するような世界ではないところに、三人は来てしまっていたのだった(でありながら、開城はアルフの力によるという皮肉な流れとなっている)。

この戦いはお互いが共倒れになりそうな壮絶なものとなり、結果は投降兵の殺害という、アルフが蘇州城主を騙したようなことになってしまう(パンにとっては四千人の捕虜を養う食料がないという、当然の理由になるのだが)。このことがあって、信義を重んじるアルフと、大義のためなら手段を選ばないパン、という亀裂となっていく。ウーヤンはパンの野望の中にも希望を見ていて、だからパンの正しさを何度も口にするのだったが、パンとリィエンの密会現場を目の当たりにしたことで、リィエンを殺してしまう。

実はここにもクイたちの陰謀があって、アルフは闇討ちにあってしまうのだが、それをパンの仕業と思ったウーヤンは、南京攻略の功績により西太后から江南と江北両江の総督に任命されたパン(これはウーヤンも望んでいたことだったのに)までを殺してしまうことになる。

投名状の誓いをした三人の、それぞれの考え方の違いを鮮明にした図式的構成は申し分ないのだが、ウーヤンの行動がそれをぶち壊している。リィエン殺害も、アルフがパンに殺されないようにと思ってのことなのだが、そしてそれには投名状という絶対守られねばならないものがあるにしても、ウーヤンの行動はそうすんなりとは理解出来ない。ナレーションをウーヤン当人にしているにしては、手際の悪いものだ。

理解しづらいのはリィエンもで、冒頭のパン介護はすでにアルフの妻なのだから(パンは知らなかったこととこの時点では弁解もできようが)ずいぶんな感じがして、観ている間中、ずっと気になっていた。が、リィエンについては、ウーヤンに殺害されると知って、「来年は二十九」で「私を殺すと夫を救えるの」か、と彼に子供っぽい抗いの言葉を口にしている場面があり、これで、それこそ何となくではあるが、彼女の心情がわかるような気になってしまったのだった。

両江総督の馬新貽の暗殺事件(千八百七十年四月十八日)が基になっているとサイトにある。手元の『世界の歴史19 中華帝国の危機』(中央公論社)をあたってみたが、この程度の概略世界史では簡単な記述にもならないようだ。けれど、この時期の列強と清の関係、また太平天国の乱など、どれも驚くような興味深い話ばかりで、もちろん、この映画で敵になる太平天国側についてほとんど何も触れていないのは、時間的制約からも正しい選択なのだが、もっともっと映画にされていい題材(時代)だろう。

もう当たり前になってしまった日本語版エンディングテーマ曲だけど、いい加減やめてほしいよね。

原題:投名状 英題:The Warlords

2008年 113分 中国、香港 シネスコサイズ 配給:ブロードメディア・スタジオ PG-12 日本語字幕:税田呑介

監督:ピーター・チャン 共同監督:イップ・ワイマン アクション監督:チン・シウトン 製作:アンドレ・モーガン、ピーター・チャン 脚本:スー・ラン、チュン・ティンナム、オーブリー・ラム 撮影:アーサー・ウォン プロダクションデザイン:イー・チュンマン 衣装:イー・チュンマン 音楽:ピーター・カム、チャン・クォンウィン

出演:ジェット・リー(パン・チンユン)、アンディ・ラウ(ツァオ・アルフ)、金城武(チャン・ウーヤン)、シュー・ジンレイ(リィエン)、グオ・シャオドン(蘇州城主ホアン)

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