劇場版 カンナさん大成功です!

新宿ミラノ2 ★☆

■全身整形で美醜問題にケリ、とまではいかず

化粧嫌いで整形などもっての外と思っていたので、初対面の人に、プチ整形など当然という話をやけに明るい口調で直接聞かされたときは、開いた口をどう閉じたものか思案に窮したことがあった(一家でそうなのだと。もう5年以上も前の話だ)。化粧をすることで自分が楽になったとは、ある女性がテレビで話していたことだが、ことほど左様に美醜問題というのは、改めて言うまでもなく、理不尽で罪の重い難しいものなのである。

人は見かけではないのは正論でも、別の基準が存在するのは周知のことで、だからって私のように、化粧は嫌いといいつつ、可愛い人(基準にかなりの振幅があるのでまだ救われるのだが)がやっぱり好きなんて、たとえ悪意なく言ったにしても、いや、悪意がないのだとしたら余計奥の深い、許されがたい問題発言なんだろう。

容姿という、今のところは個性の一部と認識されているものから解放されるためには(お互いその方がいいに決まってるもの)、日々衣服をまとうのと同じように、それが自由に選択でき、TPOに合わせた顔で出かけるようになってもいいのではないか。

前置きが長くなったが、この映画の主人公の神無月カンナは、いきなり「全身整形美人」として画面に登場する。容姿による過去の長いいじめられっ子人生が、カンナにそんなには暗い影を落としていないのは、過去については回想形式で人形アニメ処理(デジタルハリウッドだから)になっていることもあるが、でも一番は、やはり整形美人化効果が、カンナをして明るい過去形で語らせてしまうからではないか。

むろんもともとカンナには行動力があって、一目惚れした男に好意をもたれたい程度ではとどまっていられないからこそ、整形に踏み切って(500万近い金を注ぎ込んで)までその男をゲットしようと考えたのだろう。男の勤めるアパレル会社の受付嬢としてちゃっかり入社してしまうあたりの、カンナのどこまでも前向きな、でもお馬鹿としかえいない性格は、原作のマンガ(未読)を踏襲しているにしても、結果として、整形をどう考えるかという問題を置き去りにしてしまう。

こんなだから物語の流れだって、いい加減なものだ。ただ、お気楽な中にもハウツー本のような教えや美人の条件とやらが挿入されていて、これもマンガからの拝借としたら、マンガがヒットした理由も多少は頷けるというものだ。

天然美人集団の隅田川菜々子がライバル出現を思わせるが、彼女はあっさりいい人で、これは肩すかしだし、カリスマ女社長橘れい子がカンナの全身整形(カンナの出世を妬んだ社員によってカンナの過去が明かされてしまう)まで商品にしようとするしたたかさも、どうってことのない幕切れで終わってしまう。大いにもの足らないのだが、全体の薄っぺら感が逆に、マンガのページをめくるのに似た軽快さとなっていて、文句を付ける気にならない。

ではあるのだけれど、自然体のまま(カンナと同じ境遇だったのに)カンナと一緒にデザインを認められ成功してしまう(これまた安直な筋立て)カバコの方が受け入れやすいのはどうしたことか。これではせっかくカンナを主人公にした意味が……ここは何が何でもカンナに優位性を!って、ま、どうでもいいのだけれど。

ところで、カンナの目を通した画面が、昔の8ミリ映像なのは何故か。整形したら、世界はあんなふうに薄暗い色褪せたものになってしまうとでもいいたいのか。それとも、お気楽なお馬鹿キャラに見えたカンナだが、まだ過去にいじめられていた時の抑圧されて屈折したものの見方が消えずにいたということなのだろうか。明快な説明がつけられないのであれば、下手な細工はやめた方がいいのだが。

蛇足になるが、全身整形による「完全美人」として選ばれた山田優に、私はまるで心が動かされなかったのである。美醜問題は、ことほど左様に難しい……。

 

2008年 110分 ビスタサイズ 配給:ゴーシネマ

監督:井上晃一 プロデューサー:木村元子 原作:鈴木由美子 脚本:松田裕子 撮影:百束尚浩 美術:木村文洋 編集:井上晃一 音楽監督:田中茂昭 主題歌:Honey L Days『君のフレーズ』 エンディングテーマ:山田優『My All』

出演:山田優(神無月カンナ)、山崎静代(伊集院ありさ=カバコ)、中別府葵(隅田川菜々子)、永田彬(蓮台寺浩介)、佐藤仁美(森泉彩花)、柏原崇(綾小路篤)、浅野ゆう子(橘れい子)

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