M:i:III

TOHOシネマズ錦糸町-8 ★★★☆

■感情剥き出し男対冷眼冷徹冷酷男

娯楽アクション超大作の名に恥じぬデキで、目一杯楽しめる。トム・クルーズが爆風で車に叩きつけられる場面など、予告篇でいやというほど観ているのに、流れの中で観てまた感心してしまったくらいだ。

スパイは卒業して教官となり、ジュリア(ミシェル・モナハン)との結婚も控えているイーサン・ハント(トム・クルーズ)だが、教え子リンジー(ケリー・ラッセル)の救出に乗り出したことで、とんでもない事件に巻き込まれていく。教え子の死。黒幕デイヴィアン(フィリップ・シーモア・ホフマン)の捕獲に、彼の逃亡。その瞬間、魔の手はジュリアに伸びる。彼女が捕らえられたことで、ハントには「ラビットフット」という謎の兵器を取り戻すという新たなミッション(脅迫)が与えられることになってしまう。

ハラハラドキドキのまま突っ走るが、さすがに最後の方では息切れしたのか、あれっという感じの終わり方に。で、冷静になって考えるとやはりアラが見えてくる。十分楽しんでおいてアラ探しちゅーのもなんだけど。

まずどうしても気になってしまうのが、一番の大仕掛けである橋の上の場面。デイヴィアンの救出に、小型ジェットやヘリがロケット弾で攻撃してくるのはさすが国際的な武器商人と思わせるが、しかし米国内でこんなことが可能なのか。

ここまで派手に暴れて米軍がこれを見落としたのなら、それは裏(それも相当上層部とのつながりでないと)があるってことになるし、それを考えないハントも能なしになってしまう。でもこれでIMFの組織内の裏切りがわかってしまうのでは、それもへんてこだ。そのために組織内裏切り(これも最近では鼻に付いてきたものな)にはもうひとひねりが用意されているのだろうけどね。でもやっぱりこれとは関係ないよね。

次はお得意のマスクのトリックで、今回はマスク製造器まで登場させているのは楽しくていいのだが、このトリックをデイヴィアンがハントを痛めつけるのに使う(冒頭の場面)っていうのはどうなんだろう。IMFだけでなく悪役までがこれを自在に使えるのでは、もうどんな話でも作れそうだ。それに付け加えるならば、デイヴィアンがハントの結婚相手のジュリアに身代わりを立てる必要はなにもないはずだ。

そのジュリアだが、はじめて銃を持たされてあの活躍はねぇ。ハントが頭に埋め込まれた爆弾の回路を電気ショックで切り、ショック死した彼を蘇生させるという荒技までやってのける(彼女は看護士なんでした)。まあ、大甘でこれも見逃して、でも最後にIMFの本部で組織の連中と彼女が打ちとけているというのは? 「スパイ大作戦」はあくまで謎の組織が、その指令テープまで一々消去していたと記憶していましたが。こんなにオープンな組織だったとは。だったらいっそジュリアも仲間だったというオチにすれば……ってそれじゃああんまりか。

最初に最後があれれと書いたのは、この他にハントが仲間と別れ、武器も携帯1つになっていくのに合わせるかのように(でも最後までチームプレーは強調されていた)、デイヴィアン側も人数が手薄になっていくことで、自分の救出劇にあれだけの物量をぶつけてきたデイヴィアンとはとても思えないのだな。

ベルリン、ヴァチカン、ヴァージニアと快調に飛ばしてきて、上海篇は少しふざけすぎなのよ。ビルに野球のピッチングマシーンでボールを投げるのも、ハントの走りも。この走りは正当派故にその挙動がかえっておかしいのだ(ジャンプもオリンピック選手のようだった)。あと、これははじめの方のパーティ場面に戻るが、ハントが唇を読んじゃって。ありゃ、怖いよ。会話への割り込みも含めて、あんなことしてるようじゃ結婚解消と思うが。で(また最後に)、最後に愛は勝つじゃあ、って笑っちゃ悪いか。

この『M:i:III』では、ハントが特に感情剥き出しでスパイらしくないのが見物(そこが欠点でもあり面白さでもあるのだが)。何しろミッションはリンジーやジュリアがらみで、つまりなにより彼自身のミッションに他ならない。だからその延長線上で、デイヴィアンに対する怒りが爆発し、飛行機の中での度を超した脅かしとなる。が、デイヴィアンはまったく動ぜず、逆にハントの運命を予言する。

このデイヴィアンの造形もなかなかだが、裏切り上司マスグレーブ(ビリー・クラダップ)の言い分がふるっていた。彼も国益と民主主義のために働いているらしいのだ。武器商人を泳がせることでテロ国家を攻撃する口実を作ると言うのだけど、屁理屈もここまでくると……って案外現実に近いか。米国が今やっていることだものね。

ところでこの映画で私が一番心を惹かれたのは、ハントとリンジーの関係だ。リンジーがハントにお礼をいう映像には胸が熱くなった。けれど、ああいう場面を見ると同僚のヴィング・レイムス(ルーサー)ではないが、「寝たのか?」と聞きたくなってしまう。ハントの答えは「彼女は妹のようだった」というもの。いや、そうでしょうとも。だってジュリアと結婚しようとしているんだから。でもね。教え子は女性でなくてもよかったような?  でないと私のような下品な人間は、あらぬことを考えてしまいますがな。

 

【メモ】

「ラビットフット」とは一体何? 正体を明かさなくても十分物語は成り立つし、そういう演出もありなんだが。でも例えば生物兵器よ、と言われたら……あ、そう、で終わりか。

これも演出方法の問題だが、上海のビルに潜入したと思ったらハントは「ラビットフット」をもう手にしていた。侵入が今までは見せ場だったのにね。

ローレンス・フィッシュバーンは、最初の疑惑の上司ブラッセル役。堂々としていてさすがだ。

原題: Mission: Impossible III

2006年 126分 アメリカ 日本語字幕:戸田奈津子

監督:J・J・エイブラムス、脚本:J・J・エイブラムス、アレックス・カーツマン、ロベルト・オーチー、原作:ブルース・ゲラー、撮影:ダニエル・ミンデル、音楽:マイケル・ジアッキノ、テーマ音楽:ラロ・シフリン

出演:トム・クルーズ(イーサン・ハント)、フィリップ・シーモア・ホフマン(オーウェン・デイヴィアン)、ミシェル・モナハン(ジュリア)、ケリー・ラッセル(リンジー)、ヴィング・レイムス(ルーサー)、ローレンス・フィッシュバーン(ブラッセル)、サイモン・ペッグ(ベンジー)、ビリー・クラダップ(マスグレーブ)、マギー・Q(ゼーン)、ジョナサン・リス=マイヤーズ(デクラン)

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