大日本人

シネマスクエアとうきゅう ★★★★

■ある落ち目ヒーローの日常

長髪の中年男(松本人志)をカメラは追い、誰かが質問する。男はいやがっているのかいないのか、照れているのかいないのか、しぶしぶなのか、でもまあ律儀に1つ1つ答えていく。

インタビューされていた男は大佐藤大という元ヒーロー。いや、現役なのだが、人気は落ち目だから元かな、と。雇い主は防衛省だから国家公務員!? だが、変身時の体に広告を入れ、稼ぎにもしている(ということは公務員じゃないか)。月給は体を張った仕事にしては安く(20万)、副業の30万がないと厳しそうだと言っていたが、女マネージャーの小堀(UA)にいいように誤魔化されていた。

妻には逃げられ、娘にもなかなか会えず、でも恩ある祖父の4代目大佐藤(矢崎太一)の面倒は見たいと思っていてと、ヒーローというイメージからは遠いのだが、しかしヒーローの日常生活など案外こんなものかと思わせる。細部にこだわってるからね、そうかなーって。それにしても大佐藤は人気がない。インタビュー中にも家に投石されるような、つまり非難されている状態にあるのである。

インタビュー形式なので、とにかくいろんなことがわかる。折り畳み傘とわかめちゃんが好き(どちらも大きくなる)。猫と同居。自炊することが多いが、商店街の蕎麦屋へは月に2、3回出かけ力うどんを食べる。本当は男の子が欲しかったが、女の子でもこの仕事はできるだろう、と考えている。仕事以外の旅行は無理。反米感情というのではないが、アメリカはあまり好きではない。大佐藤家は戦時中は羽振りがよかった。4代目は今軽い認知症になっている。父は「粋な人」で、もっと大きくなろうとして急逝したらしい。名古屋に行きつけの店があり、そこの50歳くらいのママと懇意にしている。少年時代は肥満児。まだ体ができていないのに父に電気をかけられそうになり祖父に助けられる(でも電気にはかかってしまったらしい)。などなど(後半に答えていたこともまとめて書いてしまったが)。

公園でレポーターの質問に答えていると、大佐藤のケータイに出動要請がかかってくる。山の中にある防衛省の施設(変電所?)へとバイクで出かけていくのだが、ある場所からは取材班は入れてもらえない(遠くからは神主とかも見えたが? 一応は軍事機密なんだろうか)。

んで、電気をかけられて巨大化した大佐藤は、秋葉原に出現した締ルノ獣(海原はるか)と戦うのである(何なのだ、この映画は)。締ルノ獣についてはすでにカルテのようなものができていて、しかしそれは戦前に作られたものらしく、古めかしい能書きが読み上げられるのがおかしい。

いや、もう何から何までおかしいのだ。インタビューがそうだし、まず大佐藤という名前がおかしい。変身すれば髪はツンツンになってるし、パンツ1丁の全体は5頭身(?のイメージ)。どうみても強そうではないが、といって頑強な首回りなど弱そうでもない。対する怪獣も、カッコ悪く(不細工といった方がいいかも)どれもがいやらしくてえげつないとしかいいようのないものなのだが、素行調査済みらしく(もしかしたらすでに対戦済みということもあるのかも)、何とか勝ってしまうようなのだ。

名古屋に出張し、頭の広告を隠さないようにしながらも跳ルノ獣(竹内力)をやっつけ、また戻ってからは、睨ムノ獣を撃退するのだが(けっこう活躍しているのにね)、日本のものではないらしい赤い怪獣の出現には、勝手が違ったのか隠れて逃げてしまう。意外にもこれが好評で、数字(視聴率)がすごくよかったと小堀もうれしそうだ。ちょっと前に4代目が勝手に電気を流して大きくなり、いたずらをしまくった非難が大佐藤に向けられてスポンサーもカンカンだったのだ。

赤い怪獣は、週刊誌の吊り広告によると、どうやら「将軍様の怒りに触れた」ことで登場したらしく、つまり北朝鮮産のようだ。

このあとも匂ウノ獣の雌(板尾創路)と雄(原西孝幸)が現れたり、理屈っぽいくせにその体形と要求することだけは赤ん坊なので童ノ獣(神木隆之介)と名付けられた怪獣(映画ではただ「獣」と言っていた)が登場。大日本人は童ノ獣に乳首を噛まれたことで、抱いていた手を離して殺してしまうという事件まで起きる。

この事件が契機となったのかどうか、防衛症は大佐藤の家に突入し電気をかけ変身させてしまう。あの赤い怪獣がまたやってきたのだが、それにしても強引だ。4代目が助っ人にくるがやられて、万事休すというところで、何でか「ここからは実写でご覧ください」となる。

実写版と言われてもちょっとぴんとこなかったのだが、要するにCGではないということで、だから全員が着ぐるみでセット(ミニチュアのビルなど)の中に立って演じるので、実写という言葉とは裏腹に、セットは全部偽物だからいかにも安っぽいものとなる。

ここにスーパージャスティスというアメリカ産?のヒーロー一家がやってきて、大日本人の代わりに赤い怪獣をやっつけてくれるのだ。光線も出せず、飛べない大日本人は添え物になってしまうのだが、しかしスーパージャスティスたちは大日本人が欠けることを許してはくれない。防衛省の裏切り?と重なってこれは意味深だ。

ではあるのだが、この実写版への切替は松本人志の行き詰まりではないか。せっかくの話を何故ここでぶち壊してしまったのか、と(だから行き詰まりなんでは)。だけどエンドロールでは大阪弁のスーパージャスティス一家に反省会(段取りが悪いとか、パンツを1発で破ってほしかったとか)をやらせて笑いを取っていて、そこはさすがなんだけど。でもこれも誤魔化しの延長線に思えなくもない。それにしても反省会(にまで付き合わされて、「ぜひ」と言われて酒を飲ませられちゃってる大日本人ってさ。

普段テレビを見る時間がほとんどないので、松本人志の笑いがどんな質のものなのかまるでわからないのだが、これは楽しめた。続篇でも別のものでもぜひ観てみたい。ぜひ。

  

【メモ】

第60回カンヌ国際映画祭“監督週間”部門正式招待

変身した大日本人は、2、3日経つと元の戻るという。ただしばらくは鬱と言っていた。

大佐藤家は代々の変身家系らしいが、とはいえ電気が必要らしく、ちゃんと祖父が4代目と辻褄は合っているようだ。ということは戦争ではどんな活躍をしたのだろう。やっぱり
スーパージャスティス一家にやられちゃったんだろか。

変身に神主を付けるのは防衛省の方針なのか(突入時にもいたからね)。

2007年 113分 ビスタサイズ 配給:松竹

企画・監督:松本人志 プロデューサー:岡本昭彦 製作代表:吉野伊佐男、大崎洋 製作総指揮:白岩久弥 アソシエイトプロデューサー:長澤佳也 脚本:松本人志、高須光聖 撮影:山本英夫 美術:林田裕至、愛甲悦子 デザイン:天明屋尚(大日本人刺青デザイン) 編集:上野聡一 音楽:テイ・トウワ、川井憲次(スーパージャスティス音楽) VFX監督:瀬下寛之 音響効果:柴崎憲治 企画協力:高須光聖、長谷川朝二、倉本美津留 照明:小野晃 装飾:茂木豊 造型デザイン:百武朋 録音:白取貢 助監督:谷口正行

出演:松本人志(大佐藤大/大日本人)、インタビュアー(長谷川朝二:声のみ)、矢崎太一(4代目大日本人)竹内力(跳ルノ獣)、UA(小堀/マネージャー)、神木隆之介(童ノ獣)、海原はるか(締ルノ獣)、板尾創路(匂ウノ獣♀)、原西孝幸(匂ウノ獣♂)、ステイウイズミー(宮迫博之/スーパージャスティスの母)、スーパージャスティス(宮川大輔)、街田しおん

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