東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

2007年4月29日 日曜日

109シネマズ木場シアター6 ★★★☆

■オカンとボクと、時々、オトン、そしてミズエ

原作は未読。リリー・フランキーの自伝だろうか。そして振り返るとそこにはオカン(内田也哉子→樹木希林)がいた、というような。

小倉から筑豊の炭坑町、そして大分の美術高校時代の下宿生活を経て東京に上京し、美大時代のぐうたらな生活があって、でもなんとか稼げるようになってオカンを呼び寄せて一緒に暮らし……。料理好きで誰からも愛されたオカンのことを「ボク」(谷端奏人→冨浦智嗣→オダギリジョー)が綴っていく。

作者が最初に「小さな話」と言っているのは、特別な大それた事件というべきものなどないという謙遜と思われるが、長い年月のうちにはそれなりの事件は当然いくつもあって、それが丹念に描かれていく。むろんリリー・フランキーの子供時代は子供の目線でしかないので、上京するまでの場所は田舎なのだが、場所は違ってもこの時代の風景は私には懐かしいもので、共鳴する部分が多かった(車をハンドル操作で道を走らせるゲームってあんなにチャチだったかしらねー。かもねー、というように反応していたのね)。

そして挿話としてはどこにでもありそうな話の積み重ねながら、やはり母に対する、また母の子に対する気持ちが全編に溢れたものになっていて、でもそれは決して押しつけがましいものにはなっていなかった。

だから、抗癌剤の副作用で苦しむ壮絶な場面になっても素直に受け止められたのだろう。また、オカンに手を引かれる側だったのが「ボク」が引く側になっているベタな映像すら、とても愛しく思えたのだった。

映画の題材としてなら「この人より自由な人をボクはいまもって見たことがない」オトン(小林薫)の方がずっと料理のしがいがありそうだが、しかしこの程度の人材ならあの時代にはいくらでもゴロゴロしていた記憶があるが(人付き合いの密度が高かっただけかも)、これは映画とは別の話。それに、オトンは、後半どんどん立派なオトンになっていくんだよね。

話としては誰にでも思い当たるような部分がいくつも出てきて、その普遍性が原作をベストセラーにしたのだろう。それをまた私が引っ張り出しては、同じことの繰り返しになってしまうので、1番気になったミズエ(松たか子)の存在についてだけ書いておく。

放蕩生活の借金完済も近づき、オカンの上京が決まった頃に「新しい彼女」として登場したミズエは、「いろんなことがうまく回りはじめている」その中にいて、でも、その楽しい時間が「足早に過ぎて」オカンの癌が再発したときにはミズエと「ボク」とは、もう「私たちが別れたこと……」「まだ言っていないんだ」という会話になっている。ミズエはオカンに指輪をもらっていて、そのことを気にするのだが、はめる時とはめない時があっていいからもらっといてよ、と「ボク」は答える。

オカンの闘病生活の時にも病室を訪れるミズエの姿があるし、約束を果たすために最後に「ボク」がオカンの位牌を持って東京タワーの展望台にのぼる時にも、待ち合わせには少し遅れながらミズエはやって来るのだ。

こんな時にも彼女が来ているのは、オカンと彼女とにあった絆が大きかったことがもちろんあるが、恋人ではなくなった「ボク」とは今でも信頼関係が残っているのだろう。ミズエについては多くは語られていないので、観客の想像に委ねられているのだが、そのことがかえって彼女の存在を際だたせていたし、映画にとってもいいアクセントになっていたと思うのだ。

    

2007年 142分 シネスコサイズ 配給:松竹

監督:松岡錠司 原作:リリー・フランキー『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』 脚本:松尾スズキ 撮影:笠松則通 美術:原田満生 衣装:宮本まさ江 編集:普嶋信一 音楽:上田禎 主題歌:福山雅治『東京にもあったんだ』 メイク:豊川京子 照明:水野研一 録音:柿澤潔
 
出演:オダギリジョー(中川雅也/ボク)、樹木希林(中川栄子/オカン)、内田也哉子(若い頃の栄子)、松たか子(ミズエ)、小林薫(オトン)、冨浦智嗣(中学、高校時代の雅也)、田中祥平(小学校時代の雅也)、谷端奏人(幼少時代の雅也)、渡辺美佐子(筑豊のばあちゃん)、佐々木すみ江(小倉のばあちゃん)、原知佐子(ノブエおばさん)、結城美栄子(みえ子おばさん)、猫背椿(ブーブおばさん)、伊藤歩(タマミ)、勝地涼(平栗)、平山広行(磯山)、荒川良々(えのもと)、辻修(ホセ)、寺島進(ハイカラな男)、小島聖(若い頃のノブエおばさん)、吉本菜穂子(若い頃のみえ子おばさん)、光石研(小料理屋の客)、千石規子(病院の借家の老婆)、仲村トオル(ラジオ局のディレクター)、土屋久美子(高校の女教師)、小泉今日子(不動産屋の事務員)、板尾創路(「かっぱ」の客)、六角精児(編集長)、宮﨑あおい(アイドルDJ)、田口トモロヲ(郵便配達)、松田美由紀(中目黒の大家)、柄本明(笹塚の診療所の医者)、田中哲司(東京の病院の医者)、塩見三省(葬儀屋)、岩松了(催促する編集者の声)、江本純子(風俗嬢C)、安藤玉恵(風俗嬢A)、栗原瞳(風俗嬢B)、麻里也(堕落した日々の彼女)、竹下玲奈(大学時代の彼女)、小林麻子(似顔絵教室の女子社員)、ぼくもとさきこ(東京の看護婦)

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