さくらん

2007年4月15日 日曜日

銀座テアトルシネマ ★★

■鮒に戻ってしまいそうだ

8歳で吉原の玉菊屋に売られ、きよ葉(小池彩夢→土屋アンナ)と名付けられた遊女の物語。

脱走を繰り返すきよ葉は、店番の清次(安藤政信)になだめられ、花魁の粧ひ(菅野美穂)には花魁としての生き方を教えられる。初めての客は高尾花魁(木村佳乃)の馴染みのご隠居(市川左團次)で、きよ葉はすぐ玉菊屋の人気者になるが、惣次郎(成宮寛貴)と恋に落ちる。

客の浮世絵師、光信(永瀬正敏)の気持ちまできよ葉に向いていることことを知った高尾は、きよ葉と惣次郎の仲を裂く策略に出る。騒動となって、きよ葉はまた清次になだめられるが、高尾は悲惨な運命を選ぶ。

日暮という玉菊屋を背負って立つ花魁になったきよ葉は、大名の倉之助(椎名桔平)に見初められる。日暮のためどこまでも尽くす倉之助だったが、日暮が選んだのは、気が付くといつも自分を励ましてくれていた清次だった……。

椎名林檎の曲が舞う極彩色の映像の中にヤンキーを放り込んだ吉原を再現してみせた演出に、そう違和感がないのは褒めていいが、でもそのことで、例えば何で大門の上に金魚がいるんだとか、え、なにこの言葉、でも目くじら立てるほどではないかとか、そっちの方ばかりに気が向いてしまって(悪くはないんだけどさ)、緊張感のない話がよけい間延びしてしまったようだ。

きよ葉は最初、花魁になることを恐れていた。そんなきよ葉に粧ひは「金魚は3代で鮒にかえってしまう。美しくいられるのはビードロの中だけ」で遊女も同じと諭す。そして自らは金持ちに身請けされ、真っ当な方法で吉原から出ていく。が、粧ひは自分が羨望の目で見られる別の意味も当然知っていた。だからきよ葉に「人より多くもらう者は、より多く憎まれる」と言って簪を与えたのだ(後にきよ葉も同じことをするのだが、これはあまり意味のある場面になっていない)。

きよ葉にとっては、大切なのはてめえの足で吉原を出ることだから、身請けにはそんなに大きな意味はない。もっとも初恋の惣次郎にはそう言ってほしかったのだろうが。自分の初恋と高尾の純愛の末路を見て吹っ切れたのか、自力での足抜けが宙に浮いたようになってしまう。

「やなもんはやなだけ」と言い切れる実力をもって、楼主(石橋蓮司)や女将(夏木マリ)とやりあえるのを見せつけられては、切実さも生まれない。倉之助のあれだけの思いをかわしていくのだって、あんまりいい気分じゃない。とはいえ、誰の子かわからぬ子を妊娠してしまうのがこの商売なのだろうし、楼主や女将に楯突けるのも口先だけなのだろう。

妊娠の身でもかまわぬと言う倉之助には同情しかけるが、しかし、まず前提として遊郭などに出入りして散財しているようなやつなのだ。ご隠居のことを通人として持ち上げるのもねぇ。ま、それは別の問題にしても、ともかく肩入れ出来る人間がいないのでは仕方がない。消去法というのもつまらないが、清次が日暮の相手になるのが妥当なところか。

となると最初に清次がきよ葉に、「この桜の木に花が咲いたらここから出してやる。あの桜は咲かないんだよ」と言っていたことをちゃんと説明してほしくなる。単純に考えれば、清次は足抜けなどできっこないと言っていただけではないか。だから最後に2輪咲かせてしまったのは、2人の気持ちの表明したのかもしれないが、私にはこれがいい加減に思えてしまったのだ。

いや、ご隠居にも「咲かない花はない」と言わせているし、倉之助も金の力で玉菊屋の庭を桜で一杯にして、そのことは説明しているか。しかし、それでも納得出来ないのは2人の気持ちが伝わってこないからだろう。

吉原を後にしたきよ葉と清次が楽しそうに菜の花畑を走り、桜の下を歩いていく。なのに鮒に戻ってしまいそうだと思ってしまった私は意地が悪いのかも。

「さくらん」というのは単純に「おいらん」+「さくら」と考えればいいのか。錯乱という要素はあまりなかったと思うが。

  

【メモ】

清次は玉菊屋の跡取りとなる手筈になっていて、楼主の姪との祝言が決まっていた。

きよ葉の妊娠に最初に気付いたのも清次。きよ葉は流産してしまう。

2007年 111分 ビスタサイズ PG-12

監督:蜷川実花 チーフプロデューサー:豊島雅郎 製作:寺嶋博礼、堤静夫、亀山慶二、工富保、山本良生、庄司明弘、那須野哲弥、中村邦彦、渡辺正純 プロデューサー:宇田充 、藤田義則 エグゼクティブプロデューサー:椎名保、山崎浩一、早河洋、五十嵐隆夫、水野文英、伏谷博之、廣瀬敏雄、石川治、石井晃 原作:安野モヨコ『さくらん』 脚本: タナダユキ 撮影:石坂拓郎 視覚効果:橋本満明 美術:岩城南海子 編集:森下博昭 音楽:椎名林檎 音楽スーパーバイザー:安井輝 スクリプター:小泉篤美 スタイリスト: 伊賀大介、杉山優子 音響効果: 小島彩 照明:熊谷秀夫 装飾: 相田敏春 録音: 松本昇和 助監督:山本透
 
出演:土屋アンナ(きよ葉/日暮)、安藤政信(清次)、椎名桔平(倉之助)、成宮寛貴(惣次郎)、木村佳乃(高尾)、菅野美穂(粧ひ)、永瀬正敏(光信)、石橋蓮司(楼主)、夏木マリ(女将)、市川左團次(ご隠居)、美波(若菊)、山本浩司(大工)、遠藤憲一(坂口)、小池彩夢(少女時代のきよ葉)、山口愛(しげじ)、小泉今日子(お蘭)、蜷川みほ(桃花)、近野成美(雪路)、星野晶子(遣手)、翁華栄(番頭)、津田寛治(粧ひの客)、長塚圭史(きよ葉の客)、SABU(床紅葉の客)、丸山智己(日暮の客)、小栗旬(花屋)、会田誠、庵野秀明、忌野清志郎、大森南朋、ゴリ〈ガレッジセール〉、 古厩智之、村松利史、渋川清彦