クィーン

シャンテシネ1 ★★★

■興味などないが、しかし驚きの英王室映画

1997年8月31日に起きたダイアナ元皇太子妃の事故死がもたらした英王室の騒動を、女王エリザベス2世(ヘレン・ミレン)を主人公にして描いた作品。

まず何よりエリザベス女王を映画に登場させてしまったことにびっくりする。なにしろ事件からはまだ10年しか経っていないわけで、第三者にとってさえこれほど記憶の新しい事件となると、対象が王室であろうがなかろうが至るところに差し障りが出るのは当然で、しかしうがった見方をするなら、すでにその時点で第1級の話題作になっているのだから、興行成績の約束された企画が日の目を見ただけということになる。

それにしても日本ではとても考えられないことで、大衆紙では王室スキャンダルや批判が常態化しているイギリスならではか(むろんよくは知らない)。しかも王室ばかりでなく、最近では求心力が低下したとはいえ現役の首相を(070511追記:ブレア首相は6月27日に退陣することを表明)を俎上に乗せているのだから、驚くしかない。

そして映画は、時間軸としては1997年の5月に英国首相にトニー・ブレア(マイケル・シーン)が勝利する時期から始めているし、最後もエリザベス女王とブレアが事件の2ヶ月後に散歩する場面となっている。題名は『クィーン』ながら、主役はこの2人だろうか。

国が総選挙に湧く中、エリザベス女王に投票権のないことに触れ「1度でいいから自分の意見を表明してみたい」と彼女につぶやかさせ、女王の特殊な地位と不自由さを強調する。ダイアナはすでに民間人、と声明を出さずにいると王室に非難が集中する。このあと、エリザベス女王がひとりで運転していた車が川で立ち往生してしまい、涙を流す場面がある。その時、彼女は立派で美しい鹿を見る。他愛のない演出だが、これが意外にぴったり決まっていた。

人気絶頂で首相になったブレアは、ダイアナの事故に対してはエリザベス女王とは対照的な行動を取り(「国民のプリンセス」とダイアナを称す)、ブレア人気をうかがわせるのだが、エリザベス女王には敬意を払い続け、助言を惜しまない。すでに「国民を理解することが出来なくなったら、政権交代の時期かも」と自問していたエリザベス女王はブレアの意見を入れて、世論も好転するのだが、新聞の見出しは「女王、ブレアに跪く」と容赦がない。しかし当のブレアは「彼女は神によって女王になったと信じている」とそれ以前からエリザベス女王を弁護しているように描かれている。

当人たちは否定しそうだが、2人にはかなり好意的な内容ではないか。立場がないのは、「ダイアナは生きていても死んでもやっかいだ」と悪態をつき鹿狩りばかりしているフィリップ殿下(ジェームズ・クロムウェル)や、意見はあってもエリザベス女王には頭の上がらないチャールズ皇太子(アレックス・ジェニングス)であり、エリザベス女王に夫がそこまで気をつかわなくてもいいと思っていそうなブレア夫人(ヘレン・マックロリー)で、この3人はあのままだと少し可哀想だ。

とはいえ、実際どこまでが本当でどこまでが創作なのだろう。ニュース場面をまぶしてダイアナの事故死から1週間を切り取った脚本は、正攻法の素晴らしいものである。が、そう言ってしまっていいものかどうか。イギリスのことなどさっぱりの私には何もわからないし、映画には感心したものの興味はほとんどないし。

ところで、エリザベス女王の見た鹿はロンドンの投資銀行家に撃たれてしまうのだが、彼女はあの鹿に蹂躙されている自分の姿を見たのだろうか。でも事実は、多分ブレアが去っても、まだ彼女は死ぬまで女王として君臨するのだろう(ブレアは「私が迎える10人目の首相」なのだそうな)。それとダイアナ人気だって、ある意味では王室人気が根強いということになると思うのだが。

原題:The Queen

2006年 104分 ビスタサイズ イギリス、フランス、イタリア 日本語字幕:戸田奈津子

監督:スティーヴン・フリアーズ 製作:アンディ・ハリース、クリスティーン・ランガン、トレイシー・シーウォード 製作総指揮:フランソワ・イヴェルネル、キャメロン・マクラッケン、スコット・ルーディン 脚本:ピーター・モーガン 撮影:アフォンソ・ビアト プロダクションデザイン:アラン・マクドナルド 衣装デザイン:コンソラータ・ボイル 編集:ルチア・ズケッティ 音楽:アレクサンドル・デプラ
 
出演:ヘレン・ミレン(エリザベス女王)、マイケル・シーン(トニー・ブレア)、ジェームズ・クロムウェル(フィリップ殿下)、シルヴィア・シムズ(皇太后)、アレックス・ジェニングス(チャールズ皇太子)、ヘレン・マックロリー(シェリー・ブレア)、ロジャー・アラム(サー・ロビン・ジャンヴリン)、ティム・マクマラン(スティーヴン・ランポート)

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