今宵、フィッツジェラルド劇場で

2007年3月18日 日曜日

銀座テアトルシネマ ★★★☆

■名人芸を楽しめばそれでよい?

実在の人気ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」(原題はこちらから)の名司会者ギャリソン・キーラー本人(出演も)が、洒落っ気たっぷりに番組の最終回という架空話をデッチ上げて脚本を書いたという。

そのあたりの事情は当然知らないのだが、映画の方の「プレイリー・ホーム・コンパニオン」は、ミネソタ州のセントポールにあるフィッツジェラルド劇場で、長年にわたって公開生中継が行われてきたのだという設定だ。が、テキサスの大企業によるラジオ局の買収で、今夜がその最終日になるという。

その舞台を、楽屋裏を含めほぼ実時間で追ったつくりにしているところなどいかにもアルトマンの遺作に相応しい(群像劇でもあるしね)。『ザ・プレイヤー』ではこれ見よがしの長まわしを見せられて気分を害したものだが(実験精神は買うが)、ここにはそういうわざとらしさはない。

リリー・トムリンやウディ・ハレルソンたちが次々と繰り出す歌や喋りを、それこそラジオの観客にでもなったつもりで楽しめばそれでいいのだと思う。なにしろみんな芸達者でびっくりだからだ(そういう人が集められただけのことにしてもさ)。メリル・ストリープが相変わらず何でもやってしまうのにも感心する(ファンでもないし他の人でもいいのだが、このメンバーでは彼女が1番わかりやすいかなというだけの話)。今回も歌手になりきっていた。

舞台の構成も興味深い。度々入る架空のCMが面白く、ギャリソン・キーラーの仕切ぶりや歌はさすが長年司会をやってきたと思わせるものがある。公開生番組といってもラジオだからいたって安手で、そもそも劇場も小ぶりだし、同じ芸人が何度も登場する。手作り感の残る親しみやすさが、最終日という特殊事情で増幅されて、登場人物の気持ちを推しはかざるを得なくなるという効果を生んでいるというわけだ。

むろんそんな感傷はこちらが勝手に作り上げたもので、ことさらそれは強調されてないし、実際湿っぽくなってもいない。陽気すぎるウディ・ハレルソンとジョン・C・ライリーのめちゃくちゃ下品な掛け合いは別にしても、それぞれ最後の舞台を、プロとしてそれなりにつとめていくるからだ。

例外は、チャック・エイカーズ(L・Q・ジョーンズ)の死だろうか。もっともこれとて白いトレンチコートの女(ヴァージニア・マドセン)を登場させるための布石という側面が強い。謎の女は、劇場の探偵気取りの警備係、ガイ・ノワール(ケヴィン・クライン)に、自分は天使のアスフォデルだと語る。

自分から正体を明かす天使もどうかと思うが、ノワールは、劇場に乗り込んできた首切り人のアックスマン(トミー・リー・ジョーンズ)を天使に追い払ってもらえないかと考える。で、よくわからないのだが、天使もその気になったらしく、すでにアックスマンの車に乗り込んでいて(神出鬼没なのだ)、一緒に帰って行く。

女はやはり天使だったらしい。アックスマンの車は事故を起こして炎上してしまうのだ。しかし、そのあとは「さらば首切り人、でも事態は好転しなかった」(ノワールのナレーション)だと。なるほどね。

先にわざとらしさはないと書いたが、こんな仕掛けの1つくらいは用意せずにはいられないのがアルトマンなのだろう。で、その結論も、すでに何事も諦念の域にあるかのようだ。そうはいっても、この天使の扱いはこれでいいのだろうか。ちょっと心配になる。エイカーズの死の際に「老人が死ぬのは悲劇でない」と言わせて、すでに点は稼いでいるのだけどね。

生放送の最後の余った時間に、ヨランダ(メリル・ストリープ)の娘ローラ(リンジー・ローハン)のデビュー場所を提供しているのも粋だ。老人の諦念だけでなく、ちゃんと次の世代の登場も印象付けている。

おしまいは、解体の進む劇場で(あれ、劇場もなくなってしまうんだ)ノワールがフィッツジェラルドの胸像(貴賓席に置いてあったもの)が置かれたピアノにむかっている。追い払われてしまうんだけどね。そして隣の食堂には、いつもの顔ぶれが集まっていた……。え、天使もかよ。

【メモ】

ロバート・アルトマンは2006年11月20日、がんによる合併症のためロサンゼルスの病院で死去(81歳)。

原題:A Prairie Home Companion

2006年 105分 シネスコサイズ アメリカ 日本語字幕:岡田壮平

監督:ロバート・アルトマン 製作:デヴィッド・レヴィ、トニー・ジャッジ、ジョシュア・アストラカン、レン・アーサー 原案:ギャリソン・キーラー、ケン・ラズブニク 脚本:ギャリソン・キーラー 撮影:エド・ラックマン プロダクションデザイン:ディナ・ゴールドマン 衣装デザイン:キャサリン・マリー・トーマス 編集:ジェイコブ・クレイクロフト 音楽監督:リチャード・ドウォースキー
 
出演:ケヴィン・クライン(ガイ・ノワール)、ギャリソン・キーラー(ギャリソン・キーラー)、メリル・ストリープ(ヨランダ・ジョンソン)、リリー・トムリン(ロンダ・ジョンソン)、ウディ・ハレルソン(ダスティ)、リンジー・ローハン(ローラ・ジョンソン)、ヴァージニア・マドセン(デンジャラス・ウーマン)、ジョン・C・ライリー(レフティ)、マーヤ・ルドルフ(モリー)、メアリールイーズ・バーク(ランチレディ)、L・Q・ジョーンズ(チャック・エイカーズ)、トミー・リー・ジョーンズ(アックスマン)、ロビン・ウィリアムズ

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