世界最速のインディアン

2007年3月3日 土曜日

テアトルタイムズスクエア ★★★☆

テアトルタイムズスクエアに展示されていた、実際の撮影に使用された「インディアン」この展示は大人気で、写真を撮っている人が大勢いた

■世界最速を目指す男が誰からも愛されるのは何故だろう

ニュージーランドの片田舎インバカーギルに住むバート・マンロー(アンソニー・ホプキンス)はオートバイで速く走ることに憑かれた男だ。朝早くから騒音をふりまき、庭は放ったらかしだから近所の評判もよろしくない。しかし隣の家の少年トム(アーロン・マーフィ)には好かれていて、2人でバイクの改造に余念がない。

バートはすでに63歳、愛車の1920年型インディアン・スカウトは40年以上も前の代物だが、彼独自の改造(無造作にタイヤを削ったり、昔のエンジンを溶かしてピストンを作ったり、パーツに日用品を使ったりだから心配になってしまうのだが、すべて緻密に考えてのことなのだ)で ニュージーランドでは敵なし。バートは、自分が一体どのくらいのスピードが出せているのか知りたくてしかたがない。そんな彼が友人たちの援助(家を抵当に入れ金も借りて)で、夢だった米国ユタ州ボンヌヴィルの塩平原で開かれるスピード記録会に出場することになる。

破天荒な物語だが実話という。しかも、彼がこの時作った記録は今も破られていないというから驚くばかりだ。

映画は、夢の実現に踏み出すまでと、貨物船に乗り込み(船賃を浮かすためコックとしてなのだ)アメリカに上陸してからはボンヌヴィルまでの長い行程、そして記録会での活躍と順を追って、さながらバートの歩調に合わせたかのようなゆったりとしたペースで進んでいく。

インディアンの船荷が崩れていたり、入管事務所で尋問されたり、牽引トレーラーのタイヤがはずれる事故、あげくは記録会の登録はとっくに締め切られているし、自身は心臓と前立腺の調子が悪いときていて、つまり問題はいろいろ起きるのだが、その都度自力で、それがダメな時は助けがあらわれて、となんとかなってしまう。困難を前にバートは悲嘆にくれるでもなく、まあ出来るところまでやってみようと鷹揚に構えていて、でも決して諦めてはいない。そしてそれを観ている側は、失礼なことながら、何だか愉快な気分になっているというわけだ。

最初に「評判がよくない」と書いたが、しかしトムの両親などあんなに文句を言っていたのに、バートが記録会に出ることを知るとコレクトコールでいいから電話しろとトムに言わせている。誕生会を開きカンパを募ってくれる仲間もいれば、本気で彼のことを考えてくれる女友達もいるし、旅の行程で次々と助け船があらわれるのもバートの人柄だろうか。

変人だし、自説は曲げないし、どころかタバコは体に悪いと見ず知らずの人間に説教までする。そんなバートなのに、何故愛されるのだろう。

バートの持っている自分がやりたいことへの強烈な情熱。多分これが周囲の人間の心を動かすのだ。誰しも夢はあっても、羞恥心や自尊心や世間体や経済力や、とにかくいくらでも転がっている理屈をつけては、そんなものはとうに何処かにしまいこんでしまっているから、バートのような情熱を見せつけられると、応援せざるを得なくなるのだろう。

バートがアメリカに渡って記録を出したのは事実にしても、他の挿話の大部分は映画用に用意されたものに違いない。ロジャー・ドナルドソン描くバート像は愛らしさに満ちているが、それが出来るということは本当に素敵なことだ。

もっともバートがバートらしくしていられるのは、これが60年代だからだろうか。今だと、私のように速度記録など環境破壊でしかない、とイチャモンをつける人間もいそうだ。気分のいい映画を観ることが逆に、世知辛くて住みにくい世の中になっていることを実感することになるのだから、なんともめんどーではある。

書きそびれてしまったが、記録会でバートがインディアンにのって爆走する場面は見物だ(こういう場面がよくできているかどうかはかなり肝腎なのだ)。ただひたすら真っ直ぐ突っ走るだけなのに、知らないうちに身体に力が入っていた。これも多分ここまでの挿話の積み重ねが効いていると思われる。

 

原題:The World’s Fastest Indian

2005年 127分 シネスコサイズ 製作国:アメリカ、ニュージーランド 日本語字幕:戸田奈津子 翻訳協力:モリワキエンジニアリング

監督・脚本:ロジャー・ドナルドソン 製作:ロジャー・ドナルドソン、ゲイリー・ハナム 撮影:デヴィッド・グリブル プロダクションデザイン:J・デニス・ワシントン (アメリカ)、ロブ・ギリーズ(ニュージーランド) 編集:ジョン・ギルバート 音楽:J・ピーター・ロビンソン
 
出演:アンソニー・ホプキンス(バート・マンロー)、クリス・ローフォード(ジム・モファット/記録会出場カーレーサー)、アーロン・マーフィ(トム)、クリス・ウィリアムズ(ティナ・ワシントン/モーテルの受付嬢?)、ダイアン・ラッド(エイダ/未亡人)、パトリック・フリューガー(ラスティ/ベトナム休暇兵)、ポール・ロドリゲス(フェルナンド/中古車販売店店主)、アニー・ホイットル(フラン/郵便局員の女友達)、グレッグ・ジョンソン、アントニー・スター、ブルース・グリーンウッド、ウィリアム・ラッキング、ウォルト・ゴギンズ、エリック・ピアポイント、ジェシカ・コーフィール、クリス・ブルーノ

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