天国は待ってくれる

楽天地シネマズ錦糸町-2 ★☆

■聖なる三角形は正三角形にあらず

宏樹が築地北小学校に転校してきた日から、薫と武志の3人は大の仲良しになった。それは成人しても変わらず、今では宏樹(井ノ原快彦)は父親の夢だった新聞記者になって朝日新聞社に勤め、武志(清木場俊介)は親(蟹江敬三)と一緒に築地市場で働く。そして薫(岡本綾)は「聖なる三角形」になるようにと「銀座のお姉さん」として和文具の老舗鳩居堂の店員になっていた。

「聖なる三角形」というのは、自分たちのことをいつまでも変わらない関係を指して彼らが小学生の時から言っていた言葉だ。だけど、といきなり脱線してしまうのだが、朝日新聞社と築地市場と鳩居堂では三角形には違いない(3点を結べばたいていは三角形になるものね)が、これだと薫の位置は2人からは遠くなり、そして薫からだと武志より宏樹の方が近い位置になってしまうのである(築地市場は広いのでブレはあるが、それにしても本願寺あたりでないとまずいだろう)。

映画はこの三角形のゆがみそのままに展開する。至近距離で働く3人だが、といって子供時代のようにそうは会えるわけではない。特に武志は働く時間帯が2人とはあまりに違いすぎて、久しぶりに3人で出かけても居眠りしてしまう始末。それでかどうか、ある日宏樹と薫を呼び出しておいて、3人の時に言いたかったと前置きし、薫にプロポーズをする。この場面は「宏樹、俺、今から薫にプロポーズする、いいか」というようになっている。つまり、武志は宏樹に向かって薫にプロポーズするというわけだ。

武志より宏樹がより好きな(より近くにいるからね)薫はあわてて「ちょっと武志なに言ってんの」とごまかそうとするが、優しい宏樹は「いいじゃん、それがいいよ、おまえらお似合いだし、な薫」と答えてしまい、つられたように薫までが「そ、そうだね」と言ってしまうのだ。いや、ちょちょっと待ってくれと当事者でなくとも口を挟みたく場面なのだが、武志は1人で舞い上がって冬の海(まだ川か)に飛び込んでしまう。え、これでごまかそうってか。

結局このまま結婚へと進んでいくのだが、なんと式の当日に武志は車の事故で植物人間となってしまう。武志の入院先は聖路加なのだろう(多分)、つまり武志が築地市場から移動することで、三角形は以前に比べより正三角形に修正されるのである。武志に意識は戻らないながら、2人は毎日のように病室に顔を出し、3人の親密な時間が帰ってくる。これには宏樹が記者から内勤の仕事に代わって、武志との時間を作るようにした(しつこいが、眠ってるだけなんだよな)ということもあるのだが、私にはすっきりしない展開だ。しかも「武志は絶対目を覚ますから」と何度も言う。気持ちはわからなくはないが、このセリフは全てを台無しにしている。

昏睡状態は3年経っても変わらず、実は周囲も宏樹と薫が相思相愛だということに気付いていたことから、宏樹も薫と一緒になることを決意する。でもこれもヘンなセリフなのだな。「俺に薫を幸せにさせてくれないか。武志の目覚めるまででいいから」って、こんなのありかよ。で、そんな馬鹿なことを言うものだから、武志は本当に目覚めてしまうのだ。おいおい。

記憶は完全ではないものの元気そうに見えた武志だが、病気が再発し……。そしてまた宏樹と薫を呼び、今度はこんなことを言う。「宏樹、薫を不幸にしたら承知しねえぞ。薫、おまえはずっと宏樹に惚れてたんだ。好きな女のことはわかるんだ」と。だったら何故プロポーズなんかしたんでしょうかねー。自分がもう永くはないということを知ってだとしたら、それもちょっとね。

こうして2人の結婚式が見たいという武志の要望で、式がとりおこなわれ、武志は天国に帰って?いく。俺と薫のために天国から戻ってきてくれたというようなことを宏樹が言っていたからそうなのだろうけど、なんだかな。『天国は待ってくれる』ってそういうことなのかよ。でも、そう言われてもよくわからんぞ。

丁寧すぎるくらいのショットの積み重ねで、ゆっくりと時間がすぎていく感じが、最初のうちは好感がもてたのだが、話があまりにもいい加減だから、途中からは退屈してしまう(築地市場の映像がそれこそ何度も繰り返されるが、これは市場の移転が決まっているからなのだろう)。

3人を囲む家族たちが、薫の母親(いしだあゆみ)や武志の妹の美奈子(戸田恵梨香)など、みな温かくていい人というのも気持ちが悪い。そのくせ病室をサロンと化してしまうような勘違い精神は持ち合わせていて、酒宴まで開いて医師(石黒賢)に酒まですすめる始末。この医師も武志が「戻って来たのは自分の意志ではないか」などと、言うことは(自覚しているのだが)まるで呪術師並ときている。

やだね、悪口ばっか書いて。でもそもそも、三角形の位置関係についてこじつけてあれこれ書いたのも、この作品がひどいからなんでした(私が多少あの近辺には詳しいということもあるのだけれど)。

  

2007年 105分 サイズ■ 

監督:土岐善將 製作:宇野康秀、松本輝起、気賀純夫 プロデューサー:森谷晁育、杉浦敬、熊谷浩二、五郎丸弘二 エグゼクティブプロデューサー:高野力、鈴木尚、緒方基男 企画:小滝祥平、遠谷信幸 製作エグゼクティブ:依田巽 原作:岡田惠和『天国は待ってくれる』 脚本:岡田惠和 撮影:上野彰吾 視覚効果:松本肇 美術:金田克美 編集:奥原好幸 音楽:野澤孝智 主題歌:井ノ原快彦『春を待とう』、清木場俊介『天国は待ってくれる』 照明:赤津淳一 録音:小野寺修 助監督:田村浩太朗

出演:井ノ原快彦(宏樹)、岡本綾(薫)、清木場俊介(武志)、石黒賢(医師)、戸田恵梨香(美奈子/武志の妹)、蟹江敬三(武志の父)、いしだあゆみ(薫の母)、中村育ニ、佐々木勝彦

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