ディパーテッド

新宿ミラノ2 ★★★

■描くべき部分を間違えたことで生まれたわかりやすさ

元になった『インファナル・アフェア』はこんなにわかりやすい映画だったか、というのが1番の感想。向こうは3部作で、観た時期も飛び飛びだったということもあるが、マフィアに潜入する警察と警察に潜入するマフィアという入り組んだ物語も順を追って説明されると、そうはわかりにくいものでないことがわかる。

しかしそれにしても失敗したなと思ったのは、『インファナル・アフェア』を観直しておくべきだったということだ。『ディパーテッド』を独立した作品と思えばなんでもないことだが、でも『インファナル・アフェア』を観てしまっているのだから、それは無理なことなのだ。しかもその観た時期がなんとも中途半端なのである。記憶力の悪い私でもまだうっすらながらイメージできる部分がいくつかあって、どうしても比較しながら観てしまうことになった。といってきちんと対比できるほどではないから、どうにもやっかいな状況が生まれてしまったのだった。

というわけで、曖昧なまま書いてしまうが、違っているかもしれないので、そのつもりで(そんなのありかよ)。

まず、刑事のビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)がフランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)にいかにして信用されるようになるか、という部分。ここは意外な丁寧さで描かれていた。だからわかりやすくもある(それになにしろ話を知ってるんだもんね)のだが、逆に『インファナル・アフェア』の時はまだ全体像が見えていないこともあり、それも作用したのだろう、緊迫感は比較にならないくらい強かった。

ビリーを描くことでコステロの描写も手厚いものとなる。この下品でいかがわしい人物は、なるほどジャック・ニコルソンならではと思わせるが、しかしこれまた彼だと毒をばらまきすぎているような気がしなくもない。それにコステロが全面に出過ぎるせいで、家内工業的規模のマフィア組織にしか見えないといううらみもある(マイクロチップを中国のマフィアに流すのだからすごい取引はしているのだけどね)。

この2人に比べると、コステロに可愛がられ警察学校に入り込むコリン・サリバン(マット・デイモン)は、今回は損な役回りのではないか。ビリーには悪人揃いの家系を断ち切るために警官になろうとしたいきさつもあるから、悪に手を染めなければならない苦悩は計り知れないものがあったと思われる。が、コリンの場合はどうか。日蔭の存在から警察という日向の部分で活躍することで、案外そのことの方に生きやすさを感じていただろうに、彼の葛藤というよりは割り切り(そう、悪なのだ)が、そうは伝わってこないのだ。そういえばコステロのコリンに対する疑惑も薄かったような(本当はビリーよりこちらの方がずっと面白い部分なのだが)。

女性精神科医のマドリン(ヴェラ・ファーミガ)もビリーとコリンの2人に絡むことで重要度は増したものの、かえってわざとらしいものになってしまったし、ビリーの存在を知っている人物がクイーナン警部(マーティン・シーン)とディグナム(マーク・ウォールバーグ)で、辞表を出して姿を消していたディグナムが最後に現れてコリンに立ちはだかるのは、配役からして当然の流れとはいえ、どうなんだろ。おいしい役なのかもしれないが、なんだかな、なんである。ということは、脚本改変部分は成功していない(ような気がする)ことになるが。

 

原題:The Departed

2006年 152分 シネスコサイズ アメリカ R-15 日本語版字幕:栗原とみ子

監督:マーティン・スコセッシ 製作:マーティン・スコセッシ、ブラッド・ピット、ブラッド・グレイ、グレアム・キング 製作総指揮:G・マック・ブラウン、ダグ・デイヴィソン、クリスティン・ホーン、ロイ・リー、ジャンニ・ヌナリ 脚本:ウィリアム・モナハン オリジナル脚本:アラン・マック、フェリックス・チョン 撮影:ミヒャエル・バルハウス プロダクションデザイン:クリスティ・ズィー 衣装デザイン:サンディ・パウエル 編集:セルマ・スクーンメイカー 音楽:ハワード・ショア
 
出演:レオナルド・ディカプリオ(ビリー・コスティガン)、マット・デイモン(コリン・サリバン)、ジャック・ニコルソン(フランク・コステロ)、マーク・ウォールバーグ(ディグナム)、マーティン・シーン(クイーナン)、レイ・ウィンストン(ミスター・フレンチ)、ヴェラ・ファーミガ(マドリン)、アレック・ボールドウィン(エラービー)、アンソニー・アンダーソン(ブラウン)、ケヴィン・コリガン、ジェームズ・バッジ・デール、デヴィッド・パトリック・オハラ、マーク・ロルストン、ロバート・ウォールバーグ、クリステン・ダルトン、J・C・マッケンジー

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