それでもボクはやってない

2007年1月27日 土曜日

テアトルダイヤ ★★★★☆

■ここは私の法廷です(うゎ)

導入に別の痴漢犯(こちらは証拠に言及されて否認をすぐ撤回する、つまり本物)を平行して置いたり、担当弁護士を女性にしたりといった細かな工夫は随所に見られるものの、まったくの直球である。描きたいことを優先して撮っていたら、余計なことをしている暇が無くなってしまったという感じがするほど密度が濃いのだ。裁判という難物を扱っての濃さなのに、143分という長さを感じさせないし、痴漢冤罪事件という身近に起こりうるもので裁判の実態を解きほぐしているのだから見事というほかはない。

会社の面接に向かうために通勤ラッシュの電車に乗った金子徹平(加瀬亮)は、乗り換えの駅のホームに降りたとたん、女子中学生に袖をつかまれ痴漢呼ばわりされる。必死になって否定するが、駅事務室に連れていかれると、警察が来て拘置され、そのまま裁判に巻き込まれることに、いや裁判を闘うことになる。

警察、検察の有無を言わせぬ取り調べ、留置場の同房者、当番弁護士、上京した母の狼狽、アパートの管理人、友人の協力、民事専門の弁護士、冤罪事件に積極的なベテラン弁護士に新任女性弁護士、対照的な裁判官、公判立会検事、同じ痴漢冤罪事件の当事者、元恋人、裁判傍聴オタク、事件の目撃者など、恐るべき数の登場人物がゆるぎなく配置され、時には役割を借りた説明役になるといった案配で、無駄と思われる場面がほとんどない。

いちいち感想を書いていくときりがないのでしないが、何といっても印象深いのは裁判官によって状況が変わってしまうことだ。刑事裁判の最大の使命は無実の人を罰してはならないことだと司法修習生に説く裁判官から、「ここは私の法廷です」(審理を静粛に行うことの妨げになると、今まで認めてくれていた定員以上の傍聴人を排除)と言って憚らない裁判官に途中で交代となる。立場の違いもだが途中交代というのも、ことがことだけに恐ろしいではないか。柔和なイメージの小日向文世にこの尊大な裁判官をやらせたのは配役の妙で、こんなヤツには裁かれたくないよな、と誰しもが思うだろう。

裁判官が無罪を出すのは、警察と検察の否認ということで、それは国家にたてつくことになる、とは傍聴人の高橋長英のセリフだが、政治色の薄い裁判でも同じ構図の上にあるということか。「裁判官は被告にだけは騙されまいと思っている」という指摘にも、そんなものかと考えさせられる。さすがにすぐ「裁判官に悪意があるとは思わない」と、同じ役所広司に言わせているが、私など過激で短絡的だから、手加減することなどないのに、と思ってしまう。裁判官という職業自体が傲慢と知るべきではないか、と。

2009年にはじまる予定の裁判員制度にはずっと懐疑的でいた私だが、考えを改めないといけないのかもしれない。刑法39条や刑事法上の時効などわからないことだらけだし、少なくとも私には裁判員になる資格などないっていうのにね。

話がそれたが、あえて難点をあげるなら、再現ビデオを作ることで被害者の証言に疑問が出てくるところだろうか。ビデオはお金もかかることであるし、これはやはり実験し確証を得た上でのビデオ製作となるのが普通だろう。あとはもうすでに触れたことだが、裁判制度ではなく裁判官によって判決が、つまり裁判官に責任が転嫁されかねないということだが、しかしまあ、これも含めて裁判制度の不備を突いていることになるだろうか。

とにかく、「すべての男には動機があるの」だから、観た方がいいと思うよ。被告になる可能性が大ありなんだから。で、それ以前に、痴漢行為はやめましょう(動機のある私が言っても説得力ないんでした)。

  

2007年 143分 サイズ■ 

監督・脚本:周防正行 製作:亀山千広 プロデューサー:関口大輔、佐々木芳野、堀川慎太郎 エグゼクティブプロデューサー:桝井省志 企画:清水賢治、島谷能成、小形雄二 撮影:栢野直樹 美術:部谷京子 編集:菊池純一 音楽:周防義和 照明:長田達也 整音:米山靖、郡弘道 装飾:鈴村高正 録音:阿部茂 助監督:片島章三
 
出演:加瀬亮(金子徹平)、役所広司(荒川正義)、瀬戸朝香(須藤莉子)、山本耕史(斉藤達雄)、小日向文世(室山省吾)、正名僕蔵(大森光明)、もたいまさこ(金子豊子)、田中哲司(浜田明)、光石研(佐田満)、尾美としのり(新崎孝三)、大森南朋(山田好二)、本田博太郎(三井秀男)、高橋長英(板谷得治)、 鈴木蘭々(土井陽子)、唯野未歩子(市村美津子)、柳生みゆ(古川俊子)、野間口徹(小倉繁)、山本浩司(北尾哲)、益岡徹(田村精一郎)、北見敏之(宮本孝)、田山涼成(和田精二)、石井洋祐(平山敬三)、大和田伸也(広安敏夫)、田口浩正(月田一郎)、徳井優(西村青児)、清水美砂(佐田清子)、竹中直人(青木富夫)、矢島健一、大谷亮介、菅原大吉

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