家人と新宿へ出かける。
新宿武蔵野館2で『ホテル・ルワンダ』(Hotel Rwanda)。
1994年のルワンダ大虐殺事件は、新聞の斜め読みで記憶にかすかに残っている程度。そんな私にはこの映画は強烈すぎた。いつものように予備知識なしで観たものだから、いきなり現場に送り込まれたようなもので、うろたえるばかりだった。
とはいえ、多数派のフツ族と少数派のツチ族による3年間続いた内戦がようやく終息し和平協定が結ばれようとしていた、というような状況説明に抜かりがあるわけではない。首都キガリにある高級ホテルという特殊性もあって、そのあたりは実にわかりやすくなっている。
和平協定の言葉とはうらはらに、ラジオからはツチ族非難の過激なアジ演説が繰り返され、行く先々ではさぐるような目線を浴びせられる。主人公のポール・ルセサバギナ(ドン・チードル)自身はフツ族だが、妻のタチアナ(ソフィー・オコネドー)はツチ族だから心穏やかではいられない。
そして、惨劇はすぐにやってくる。この先の展開は娯楽映画顔負けの面白さで、って不謹慎なんだけど、でもそう。次々おこる難問から、有能な支配人のポールは、培ってきた人脈やホテルが初期段階では安全地帯として機能していたことなどを利用して、切り抜けていく。この地で有能であるには、賄賂も欠かせなければ物資調達には特殊なルートも必要で、ポールは、貶めて描いてはいないが、つまりはそういう人間でもある。
政府軍、民兵、国連の平和維持軍、ジャーナリストに人道支援組織、それにホテルのヨーロッパ資本など、それぞれの立場が脚本に巧みに織り交ぜられている。ポールは虐殺のフィルムが世界に流れることで支援の手が差し伸べられるのを期待するが、決死で撮影してきた当人(ホアキン・フェニックス)ですら「世界の人々はあの映像を見て怖いねと言うだけでディナーを続ける」と思っているのだ。
タチアナの兄夫婦の捜索(もっともこれには事件の始まる伏線がある)やタチアナに対するポールの対し方など、個人的には少し過剰に思えるのだが、ポールはごく普通の人間であって、結果として英雄になったことがこういうシーンでもうかがえるようになっている。
煽動され踊らされる民兵、隣人が敵と化す民族抹殺。その底知れぬ怖さと原因を考えないではいられない。
ラパウザで食事をするのにぴったりの空き時間。というか、何が何でもタダ券なんだけど。
新宿東急で『シリアナ』(Syriana)。
はてなダイアリーには、「『シリアナ』とは、CIAが実際に使ってると言われる、イラン、イラク、シリアの三国がひとつの国家になるという事態を想定した架空の国のコードネーム」とある。
映画は、CIA諜報員のボブ・バーンズ(ジョージ・クルーニー)、エネルギーアナリストのブライアン・ウッドマン(マット・デイモン)、弁護士ベネット・ホリデイ(ジェフリー・ライト)、さらにパキスタン人の出稼ぎ青年ワシーム(マザール・ムニール)の話が複雑に絡まって進行する。
だから前半はかなり苦痛。そして最後になってもこの4人の話は、関連性はあるにしても娯楽作のようにすっきり一つにまとまるわけではない。もちろんある結末に向かって、なるほどそうだったのかと収束してはいくのだが、あとで一緒に観た家人から細部について質問されても、一つとしてまともに答えられないありさま。
ただ、この一筋縄ではいかないわかりにくさは現実そのものか(弁解でしかないよなー)。黒幕のような存在も登場するが、というよりそれぞれが属するグループの利権や思惑が、4人を動かし、あるいは動くことになる。むしろ4人に絞ったのは、多少なりともわかりやすくした結果かとも思えてくる。
ワシームが自爆テロリストへの道をたどる話だけはすんなり理解できる。他の3人は一応アメリカ人で、立場がまるで違うこともあるが、この中では別の話のようにみえる。貧困からイスラム原理主義に取り込まれていく部分は、イスラム神学校(ここではテロリスト養成学校でもある)もからんでいるから誤解を生みそうだが、彼らの心情を一面とはいえアメリカ映画が代弁しているのは画期的だろう。そしてなによりワシームの純粋さが、世俗にまみれた他の3人に比べ、比較するのはおかしいのだが、際だって見えるのだ。
ワシームの行動は、もとはといえばCIAのボブが狙っていた王子が、中国へ利権をまわしたことで生じた失業によるというのも皮肉だ。アメリカのメジャー支配から脱しようとする王子に、ワシームの存在は考えられないだろう。そしてその王子も父親から見放され、命まで失うことになる。
偵察衛星で王子を追い殺害する部分はショックだが、いかにも映画的で、ここまで本当にするだろうかという疑問が残る。傀儡政権が約束されたあとでのことだし。王子の車の列に脇から突入するボブの行動も? いくら白旗を振ったってあれじゃ撃たれて当然と思うが。
冒頭の武器商人暗殺がテロまがいなのもどうか? もっと他にいくらでもやり方はありそうなのに。元CIA職員の暴露本がネタにしては、意外と杜撰な感じがして、作り手の腰がすわっていない印象を受けた。
ブライアンが暗殺場所から一人歩いて去ってしまうのも問題(こんなことが許される?)。で、家族のもとに帰るのだけど、これは甘すぎるし蛇足。でもないのかな、最後のワシームの自爆テロと対比されるわけだから。結局何もわかっていないで足を突っ込んでいただけのアメリカ人と理解すればいいのかも。
弁護士のベネットに触れられなかったが、ジェフリー・ライトがよかった。
家人とは別れ(今日は珍しくここまで一緒)西口へ。ヨドバシ、ビックカメラをうろつき、毎年のように新しいのにしなければ、と言っていた会計ソフトを購入。
帰りがけに、散髪。 |